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原状回復はどこまで借主負担?判定チャートと減額計算のしかた
退去費用

原状回復はどこまで借主負担?判定チャートと減額計算のしかた

約20分で読めます

賃貸の相見積ドットコム 編集部

賃貸のお部屋探しや初期費用に関する不安・疑問を持つ方に向けて、誰でも正しく比較・判断できるようになる情報を中立・公正な姿勢で発信しています。記事作成の際は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」賃貸住宅管理に関する公的ガイドライン消費者契約法などの公的資料を必ず確認し、正確な情報提供に努めています。記載している金額・相場は公開情報に基づく目安であり、実費は物件や会社により異なります。最終的な判断の際は、不動産会社や公の相談窓口への確認をおすすめします。

結論:原状回復で借主が負担するのは「故意・過失・善良な管理者の注意義務違反」によって生じた損傷だけです(民法621条)。通常の生活で生じる経年変化・通常損耗(そんもう=ふだんの暮らしで自然にできる傷み)は借主負担から除外されており、2020年の民法改正でこの考え方が法律に明文化されました。 さらに借主負担になるケースでも「補修は最小単位」「耐用年数による減額」という2つのルールで金額は減ります。この記事では、退去時に請求された項目を自分で判定するチャートと、減額計算の具体例を解説します。

退去を控えた賃貸の入居者から寄せられる不安の多くは、「原状回復費用として請求された金額は本当に全部自分の負担なのか」というものです。管理会社から送られてきた精算書にはクロス張替え、ハウスクリーニング、畳表替えなどの項目が並びますが、そのうち相当部分は本来貸主(オーナー)負担である可能性があります

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(2011年再改訂版)は、この負担区分を部位別に整理した事実上の業界基準で、裁判所でも参照されます。この記事では、そのガイドラインと民法621条に基づいて、精算書の項目を借主が自分で判定する方法を解説します。

この記事で分かること:

  • 原状回復の3区分(貸主負担A/借主負担B/減額されるB+A)
  • 借主負担になるケース・ならないケースの部位別一覧
  • ★精算書の項目を3ステップで判定するチャート(この記事の核1)
  • ★借主負担でも減額される2つのルールと計算例(この記事の核2)
  • 有効な特約の3要件(最高裁判例)と高額請求されたときの対処手順
  • よくある質問6問(FAQPage対応)

結論:借主負担は「故意・過失・善管注意義務違反」だけ

まず法律の条文から確認します。民法621条は原状回復義務について次のように定めています。

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。(民法第621条)

注目すべきは「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」の一文です。普通に生活していて自然に起こる壁紙の日焼け、畳の変色、家具による床のへこみなどは、最初から原状回復義務の対象外です。この考え方は長らく国交省ガイドラインによる解釈でしたが、2020年4月施行の民法改正で法律の条文自体に明文化されました。

つまり、「借りたときの状態に戻して返すのが原状回復」という理解は誤りです。正しくは**「借主の故意・過失・善管注意義務違反によって生じた損傷だけを直して返す」**が原状回復です。経年劣化の修繕は毎月の家賃に含まれていると考えられており、退去時に借主へ請求することはできません。


原状回復の3区分(貸主A/借主B/減額B+A)

国土交通省のガイドラインは、退去時の部屋の傷み・破損(ガイドラインの用語では「損耗・毀損」)を3つの区分に分けて「誰が負担するか」を判定します。精算書を受け取ったら、各項目をこの3区分のどれに当てはまるか振り分けるのが第一歩です。

区分負担者該当するもの具体例
A区分貸主(借主負担なし)経年変化・通常損耗日焼けによる壁紙の変色、家具設置による床のへこみ、設備の経年劣化
B区分借主故意・過失・善管注意義務違反落書き、鍵の紛失、ペットの傷(飼育不可物件)、タバコのヤニ
B+A区分借主(ただし減額)借主責任の傷みだが経過年数を考慮タバコによる壁紙の変色、引越し時の床の傷、結露を放置したカビ

ポイントはB区分とB+A区分の違いです。借主の責任で生じた傷みでも、その部分の内装材・設備に「まだ使える寿命」が残っていた場合に全額負担させるのは公平でない、という考え方で、経過年数に応じて負担額が減額されます(詳しくは後述の「減額される2つのルール」)。

また、A区分に該当するものは「次の入居者のために行うクリーニングや畳の表替え」も含まれます。入居者の入れ替わりに伴う更新費用は、事業としての賃貸経営に含まれる費用だからです。

「現状復帰」との違い:住宅の借主にスケルトン返しは不要

検索すると「原状回復」とよく並ぶ言葉に**「現状復帰(げんじょうふっき)」**があります。混同されやすい両者は、次のように使い分けられます。

項目原状回復現状復帰
主な使われる場面賃貸住宅を含む建物賃貸借一般主にオフィス・店舗など事業用物件
復旧の内容故意・過失等による損傷の復旧(経年変化・普段の生活での傷みは除外)造作・内装の除却など、借りた当時の状態への復旧
借主の負担感負担は故意・過失分に限定される居抜き・スケルトン条件によっては大規模な工事費用が発生

住宅の賃貸借で借主に課されるのはあくまで民法621条の原状回復義務であり、「スケルトン(内装を解体した裸の状態)で返す」義務はありません。スケルトン返しはオフィスや店舗の賃貸で契約条件として現れる概念です。住宅の退去精算で「原状回復だから内装をすべて元に戻せ」という趣旨の請求を受けたら、それは原状回復の範囲を超えた主張です。


借主負担になるケース・ならないケース(部位別一覧)

ガイドラインの別表をもとに、退去精算で実際に問題になりやすい項目を整理します。精算書の項目と見比べてください。

区分の凡例:A=貸主負担(借主負担なし)/B=借主負担/B+A=借主負担(経過年数で減額あり)

床(フローリング・畳・カーペット等)

状態区分借主負担
家具を置いた跡のへこみAなし
日光による色あせ・変色Aなし
畳の裏返し・表替え(通常使用の範囲)Aなし
引越し作業でつけた傷B+A減額あり
飲み物をこぼしたシミ(放置で拡大)B+A減額あり
タバコの焦げ跡B+A減額あり
ペットの引っかき傷・尿による変色B+A減額あり

壁・天井(クロス等)

状態区分借主負担
日焼けによるクロスの変色・黄ばみAなし
電気ヤケ(コンセント周辺の変色)Aなし
画鋲・ピンの穴(下地ボードの損傷なし)Aなし
家具の後ろの壁の黒ずみAなし
タバコのヤニによる変色・臭いB+A減額あり
結露を放置したことによるカビ・シミB+A減額あり
落書き・大きいネジ穴(下地の損傷あり)B+A減額あり
キッチン回りの油汚れ(手入れ不足)B+A減額あり

建具・設備

状態区分借主負担
ドア・窓の建て付けの不良(自然劣化)Aなし
エアコン・給湯器などの経年劣化による故障Aなし
ドアを強く閉める等でつけた傷・破損B+A減額あり
清掃を怠ったことによる設備の故障B+A減額あり
誤った使い方による設備の破損B全額に近い負担

清掃・鍵・その他

状態区分借主負担
退去時の通常の清掃Aなし
ハウスクリーニング(有効な特約がある場合B特約の金額次第
鍵の紛失・破損B全額(耐用年数の考慮なし)
ベランダに放置したゴミの撤去B全額

一覧のとおり、**「普通に住んでいて起こりうるもの」はほぼA区分(借主負担なし)**です。一方で「自分の行為・手入れ不足で生じたもの」「契約上の義務を果たさなかったもの」はB・B+A区分に振り分けられます。


精算書の項目を3ステップで判定するチャート【この記事の核①】

精算書を一枚受け取ったら、各項目を次の3ステップで判定します。表を見ながら項目を一つずつ振り分けてください。

区分の凡例:A=貸主負担(借主負担なし)/B=借主負担/B+A=借主負担(経過年数で減額あり)

ステップ1:その傷みは「経年変化・通常損耗(ふだんの生活で自然にできる傷み)」か?

→ YESならA区分=借主負担なし。精算書から差し引くよう求められます。 → NO、または「借主の過失によると主張されている」ならステップ2へ。

ステップ2:有効な特約があるか?

契約書の特約事項を確認します。クリーニング費用など「本来は貸主負担だが特約で借主負担にできるもの」があり、特約が有効(後述の3要件を満たす)なら、特約どおりの負担になります。 → 有効な特約がないのに請求されているなら、その項目は原則A区分。 → 特約がある、またはB/B+A区分に該当するならステップ3へ。

ステップ3:経過年数による減額を適用できるか?

B+A区分の項目は「(耐用年数−経過年数)÷耐用年数」で負担割合を計算します(次章で具体例)。また、一部の損傷を理由に部屋全体の張替え費用を請求されている場合は「最小単位の原則」で対象範囲を狭められます。

判定の具体例

例①:3年住んだ1Kの精算書「クロス張替え(全室)88,000円」

  • 壁紙の日焼け変色のみで、タバコのヤニや汚損がない → ステップ1でA区分。全額貸主負担です。
  • 一部に結露放置のカビがあったとしても、張替え対象は「カビが生じた壁面」が最小単位。全室分の請求は過大請求の可能性が高く、なおかつ3年経過で減額計算が働きます。

例②:2年住んで鍵を1本紛失「シリンダー交換22,000円」

  • 鍵の紛失はB区分(耐用年数の考慮なし)で借主負担。ただし金額の妥当性は確認できます。シリンダー交換の相場は15,000〜30,000円程度なので、大きく外れていなければ負担の範囲内、大幅に上回るなら根拠(見積書)を求めます。

借主負担でも減額される2つのルール【この記事の核②】

B区分(借主負担)・B+A区分(借主負担・経過年数で減額)と判定された項目でも、借主が全額を負担するとは限りません。ガイドラインと裁判例には、負担額を減らす2つのルールがあります。

ルール1:補修は「毀損した最小単位」の原則

毀損(きそん)とは、物を壊したり傷つけたりすることです。2011年のガイドライン再改訂で明文化された原則です。一部に損傷がある場合、補修の単位は損傷が生じた最小の単位(クロスなら損傷部分の壁面、畳なら傷んだ1枚、フローリングなら傷の部分補修)に限られます。

「壁の一部に汚れがあった」ことを理由に「部屋全体のクロス張替え費用」を請求するのは、この原則に反する過大請求です。次の入居者のために同じ部屋の他の壁面も張り替えるのであれば、それは貸主側の更新費用に含まれます。

ルール2:耐用年数による残存価値の割引

内装材や設備には耐用年数(使える期間の目安)があり、借主が退去した時点で寿命がどれだけ残っているかで負担割合が決まります。

計算式は次のとおりです。

借主負担割合 =(耐用年数 − 経過年数)÷ 耐用年数

クロス(壁紙)の耐用年数はガイドラインで6年とされています。修繕費用10万円のクロス張替えを例に、入居年数ごとの借主負担額を計算すると次の表になります。

入居年数計算借主負担割合負担額(修繕費10万円の場合)
1年(6−1)÷6約83%約83,000円
2年(6−2)÷6約67%約67,000円
3年(6−3)÷650%50,000円
4年(6−4)÷6約33%約33,000円
5年(6−5)÷6約17%約17,000円
6年以上残存価値1円ほぼゼロ1円

この計算を、精算書のB+A区分の項目ごとに適用します。なお、ガイドラインでは耐用年数を経過した資材の残存価値は「1円」と扱われます。つまり寿命が尽きたものを壊しても、借主の負担は実質ゼロです。

裁判例でも残存価値は考慮される

国土交通省のガイドラインに紹介された裁判例(東京簡易裁判所・2002年)では、借主の過失で壁に穴を開け壁紙の張替えが必要になった事案で、壁紙が2年前に張り替えられていたことを理由に残存価値の60%相当のみが借主負担とされました。また、借主の不注意で換気扇に焼け焦げができた事案では、設置後12年が経過していたため残存価値の10%のみが負担対象となっています。過失があっても「壊した時点の価値」しか賠償しないのが裁判の実務です。


6年以上住んだらどうなる?

入居期間がクロスの耐用年数(6年)を超えていれば、タバコのヤニや結露のカビなど借主責任の汚損があっても、クロス張替え費用の残存価値は1円です。実質的に貸主負担で張り替えることになります

長期入居の物件で「クロス全面張替え○○万円」という請求を受けたら、まず次の2点を確認してください。

  1. 入居年数が6年(クロスの耐用年数)を超えていないか — 超えていれば残存価値1円を主張できます
  2. 請求対象が汚損部分に限定されているか — 全室張替えであれば、汚損のない部分はA区分(貸主負担)

ただし、畳やフローリングなど年数の運用が定まっていない部位では、交渉によって負担割合が決まります。その場合も「自分が壊した時点でどれだけの価値が残っていたか」という残存価値の考え方自体は共通の土俵です。

なお、退去費用全体の相場(広さ別・家賃別の目安)と「10万円未満」の一般目安については、退去費用はいくら?家賃・広さ別の相場で詳しく解説しています。


特約がある場合:有効な特約の3要件

「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担とする」「原状回復費用は借主が全額負担する」などの特約が契約書に記載されているケースがあります。特約があるとガイドラインの負担区分より特約が優先されますが、どんな特約でも有効なわけではありません

最高裁判所(平成17年12月16日判決)は、借主に通常損耗の補修義務を負わせる特約が有効となるための要件を次のように示しました。

  1. 特約の必要性があり、通常損耗・経年変化の範囲が契約書の条項に具体的に明記されていること(「原状回復費用は借主負担」のような漠然とした記載では不十分)
  2. 借主が特約の内容を明確に認識していること(口頭で説明され、認識の上で合意していること)
  3. 借主が特別の義務を負う意思表示をしていること

この3要件を満たさない特約は無効を主張できます。また、個人の入居者と事業者(貸主・管理会社)の契約には消費者契約法が適用され、**消費者の利益を一方的に害する条項(同法10条)**は無効です。相場を大きく超えるクリーニング費用を特約で請求するようなケースは、この規定により一部が無効になる場合があります。

特約の内容有効性の目安
「クリーニング費用○万円を借主負担とする」(金額明示・説明済み)有効な場合が多い(金額の妥当性は別途確認)
「原状回復費用はすべて借主が負担する」漠然としており無効を主張しやすい
「クロスは経過年数にかかわらず全面張替え費用を借主負担」残存価値を無視しており無効になりやすい

クリーニング費用については、特約がないのに請求された場合は負担義務がないとされた裁判例(仙台簡易裁判所・2000年)があります。一方で有効な特約があれば負担が認められる裁判例(東京地方裁判所・2009年)もあり、分かれ目は特約の有効性です。


高額請求されたときの対処手順

精算書を見て「これはおかしい」と感じたら、その場で同意せず、次の手順で対応します。

手順1:内訳明細の書面を受け取る

精算書には各項目の単価・面積・負担割合が記載されているはずです。口頭の説明だけなら「書面で送ってください」と伝えます。書面がなければ、それ自体が交渉の材料になります。

手順2:この記事の3ステップで各項目を判定する

A区分(貸主負担)の項目、全額請求されているB+A区分(借主負担・経過年数で減額)の項目、無効な特約に基づく項目を洗い出します。入居年数が分かる書類(契約書・更新通知)も手元に置いてください。

手順3:証拠をそろえる

  • 入居直後に撮影した室内の写真・動画(日時が残る形で)
  • 退去後・荷物を出した後の室内の写真
  • 貸主や管理会社とのやり取りの記録(メール・メモ)

入居時に撮影する習慣がない場合、退去時の写真だけでも「退去時の状態」を示す証拠になります。入居前の確認ポイントは内見チェックリストで解説しています。

手順4:書面で異議を伝える

問題のある項目について、「民法621条および国土交通省ガイドラインでは経年変化・通常損耗は借主負担に該当しない」「入居○年を経過したクロスの残存価値は1円である」など、根拠を添えて減額を求めます。電話ではなくメールや内容証明郵便など、記録の残る方法が確実です。

手順5:解決しない場合は相談窓口へ

原状回復項目への異議が通らない場合は、消費者ホットライン(188)(国民生活センター・消費生活センターにつながる共通番号)にまず相談します。相談窓口の選び方・消費者契約法を使った交渉の進め方・弁護士に依頼すべきケースの見極めは、敷金はいくら返ってくる?返還額の計算と原状回復の正しい範囲で詳しく解説しています。

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よくある質問

Q1. 畳やフローリングの耐用年数は何年ですか?

クロス(壁紙)の6年は国土交通省ガイドラインの別表に明記された値ですが、畳・フローリングなどについてガイドラインは特定の年数を定めていません。実務では国税庁の耐用年数表(木造建物22年・RC造47年など)を参考に、残存価値の割引が当事者間で決められるのが一般的です。いずれにしても「経過年数で負担が減る」考え方自体は共通です。

Q2. ペットによる傷や臭いは全額負担ですか?

ペット可物件での通常の傷はB+A区分(減額あり)です。ただしペット飼育不可の物件で無断で飼育していた場合は契約違反にあたり、修繕費用に加えて慰謝料や原状回復費用の全額負担が認められやすくなります。

Q3. ハウスクリーニング代は絶対に払わなければいけないですか?

有効な特約がない限り、通常清掃の範囲のクリーニングは貸主負担です(A区分)。特約がある場合でも、金額が相場(1LDKで3〜5万円程度が目安)を大きく超える場合は消費者契約法に基づき減額を主張できます。

Q4. 壁に穴を開けました(DIY・壁紙の貼替え等)。どこまでが借主負担ですか?

画鋲やピンの跡程度で下地に損傷がなければA区分(貸主負担)です。ネジ穴や大きい穴で下地の石膏ボードの補修が必要な場合はB+A区分になり、クロス張替え費用が経過年数で減額された上で借主負担になります。無断でエアコンの配管穴を開けた場合も同様です。

Q5. 築年数が古い物件ですが、それでも請求されますか?

内装材や設備の耐用年数を経過していれば残存価値は1円として扱われ、借主負担は実質ゼロに近くなります。築古物件で全額請求された場合は、対象資材の経過年数を確認することが最大の防御になります。

Q6. 退去立会いのその場で「全額負担」の同意を求められました。署名すべきですか?

急ぐ必要はありません。「持ち帰って確認する」と伝えて署名を保留できます。立会いの記録と精算書を受け取り、この記事の3ステップで判定してから回答すればよく、その場での合意を拒むこと自体は権利の行使です。


まとめ

原状回復の借主負担範囲は、民法621条と国土交通省ガイドラインが明確な基準を示しています。

確認ポイント内容
借主負担の範囲故意・過失・善管注意義務違反による損傷のみ(経年変化・通常損耗は除外)
判定の土台A区分(貸主負担)/B区分(借主負担)/B+A区分(減額あり)
減額ルール1補修は毀損した最小単位(全室張替え請求は過大請求の可能性)
減額ルール2(耐用年数−経過年数)÷耐用年数。クロス6年超で残存価値1円
特約3要件(最高裁H17.12.16)を満たさない特約は無効を主張可能

高額請求のほとんどは、「A区分の項目が含まれている」「B+A区分の減額がされていない」「無効な特約を根拠にしている」のいずれかです。精算書の項目をひとつずつ振り分けてから交渉すれば、払う必要のない費用は大幅に減らせます。

退去費用の相場と全体像は退去費用はいくら?家賃・広さ別の相場で、敷金の精算・返還額の計算は敷金はいくら返ってくる?返還額の計算方法で解説しています。あわせてご覧ください。


根拠法令・出典

本記事の記載は以下の公開法令・公的機関の資料に基づきます(特定の監修者表記ではなく、法令・公的機関の権威で正確性を担保しています)。

  • 民法 第621条(原状回復義務・通常損耗と経年変化の除外。2020年4月施行の改正民法で明文化) — 出典:e-Gov法令検索
  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(A/B/B+A区分・別表・最小単位の原則・残存価値1円・裁判例の紹介) — 出典:国土交通省
  • 最高裁判所 平成17年12月16日判決(通常損耗補修特約の有効要件) — 出典:裁判所
  • 消費者契約法 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) — 出典:e-Gov法令検索
  • 国税庁 耐用年数表(衛生陶器15年等。畳・フローリング等の年数は実務上の参考値) — 出典:国税庁

この記事を書いた人

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